【書評】42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」〜ケニア・エチオピア勢の強さの秘訣に迫った良書〜

1年ほど前に書いた書評。

当時は誰に見せるでもなくEvernoteに寝かせてあったのですが、せっかくブログをはじめたので晒します。

現役で箱根駅伝予選会を目指していた時期に書いたものなので、割と現場寄りの意見となっています。

 

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42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」 レビュー

一年前NHKスペシャルでミラクルボディをみたときに衝撃をうけ、それ以来その内容がずっと忘れられずにいたのだが、つい先日ミラクルボディの書籍版が出ていることをAmazonで知り、迷わず注文した。

本の大筋はミラクルボディとほとんど変わらず、テレビでみた内容がそのまま文字になったという印象。「こんな話もあったなぁ」と、当時みた映像を思い出しながら楽しく読むことができた。

自分は学生で運動生理学を学ぶ身なのだが、本書は運動生理学の中でも特にマラソンを専門とする研究者の意見や論文が多数紹介されており、まさに「マラソン科学の最前線」という印象を受けた。特に、バイオメカニクスや生理学、はたまた心理学(?)など多岐にわたる分野を駆使して、過去3度に渡ってマラソンの世界記録を更新したゲブラシラシエの身体能力について検証した内容は非常に読み応えがあった。

トップアスリートの身体特性については諸説あり、実際のところ何が正解かは分かっていないところが多いが、本書はそういった領域について「地に足着いた」考察がなされており、なるほど、と思わず唸らされた。

全体を通して専門的な知識を持たない人も理解できるように構成されており、マラソン好きであれば誰もが楽しく読めるのではないかと思う。

 

裸足ジョグについての考察

裸足ジョグをすることで、足首の屈筋群や土踏まずのアーチを支える筋群、また足の指の筋肉が鍛えられる。ケニアの選手がつま先接地を行えるのは、幼少期を裸足で生活していたことが深く関係している。

では、僕のように陸上歴が数年以上あり、踵からの接地に慣れてしまった人がアフリカの選手たちを見習って裸足で走ることは、果たしてつま先接地の体得をもたらすのだろうか。これについては、僕は否定的である。

なぜなら、幼少期から裸足で生活しているのと、幼少期から靴を履いて生活しているのでは、足の筋肉のつき方(筋の強さや、各筋のバランス)が根本的に異なるからだ。また、人種の違いからくる身体特性の差異も存在する(僕たち日本人は総じて胴長短足であり、短く弱いアキレス腱を有する)。
つまり、僕たちが裸足ジョグを行う場合、その目的をつま先接地の体得とするのは非合理的であり、他の効果を狙って行うほうが妥当である。他の効果とは、先述した筋群の強化など。

裸足ジョグにより鍛えられる筋群の強化はシンスプリントなどの故障リスクを減らす。また、靴を履いているときと違い、地面からの衝撃が直接筋や関節に伝わるため、プライオメトリックスな効果が得られる。さらに、靴を脱ぐことで心理的な開放感が得られる。このように、裸足ジョグは普段底の厚い靴で走っている僕たちにとって行う価値のある練習であると言える。

しかし一方で、足下に注意して走らないと鋭利な砂利などで足底を怪我する恐れがあり、また靴を履いているときとは違う筋群に負担がかかるため故障につながるリスクもある。そういったメリットデメリットをきちんと把握した上で裸足ジョグを行うことによって、競技力の向上に役立たせることができるのではないかと思う。

 

「つま先着地」vs「かかと着地」

接地に関して、「遅いランナーほど踵接地が多く、速いランナーほどつま先接地に近くなる」という論文が本文中で紹介されていた。これはマラソンに出場した100名を対象とした実験だが、ある意味当然の結果だと思う。

なぜなら、同じ人であっても、走速度が上がるに従って足底の接地位置は徐々に前方へと移っていくからだ。

つまり、「つま先接地をする者が速い」のではなく、「走る速度が速くなるに従い接地位置が踵からつま先に寄っていく」と考える方がより妥当なのではないかと思う。

 

その他、面白かった内容

  • Living High Training Low
  • サラサラ血液
  • 加齢からくるマラソンのパフォーマンス低下は、最大心拍数の低下による最大酸素摂取量の低下が最たる原因
  • ランニングシューズが足を退化させる
  • 心理の壁
  • なぜ日本は勝てなくなったか

サラサラ血液に関する反論:

(個人的な反論)ドーピングである血液注射は、血液中のヘモグロビン濃度を上昇させる(=血液を流れにくくする)ことでパフォーマンスを向上させる。そのため、血液のサラサラ具合が長距離の競技力に与える影響はそれほど大きくないのではないか、と考える。

 

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まとめ

少々old typeの意見もみられ喉につっかえる記述も見られましたが、総じて興味深い内容だったことを記憶しています。

なぜケニアやエチオピアの選手がマラソンなどの長距離種目で圧倒的な強さを誇るのか知りたい人は、是非一読ください。

kindle版もあるようです。