乳酸は疲労物質?いやいや、エネルギー物質です。【マラソン・陸上】

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「うわー乳酸溜まってるわぁ。足ぱんぱんだわぁ」

 

ハードなトレーニングを行った後、地面に横たわりながらそんなことをいった経験はありませんか?

乳酸は疲労の原因だと古くから信じられ、練習などで疲れるのは、身体の中に乳酸が溜まるからだと考えられてきました。

つい最近まで保健体育の教科書に「乳酸は疲労物質である」と記述されていたこともあり、体育教師などのスポーツ現場に携わる人さえも乳酸が疲労物質であるということを信じて疑いませんでした。

しかし近年、この 考え方が見直され、「乳酸は疲労物質ではなく、運動を行う上で欠かせないエネルギー基質である」という風に考えられるようになってきており、乳酸に関する常識が根底から覆りつつあります。

実際、すでに保健体育の教科書の内容も改訂され、「乳酸はエネルギー基質である」というように記述が変更されています。

そこで今回は、

いったい、乳酸って何者なの?

ということについて、乳酸が疲労物質であると言われるようになった歴史的背景と、なぜにその考えが覆ることになったのか、つらつらと書いていきます。

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photo by kit oates(CC-BY SA) 

なぜ乳酸が疲労物質であると考えられていたのか

ことのはじまりは、いまから100年以上前の1800年代。

当時の研究者は、被験者に全力疾走をさせ、身体が疲労した状態で血液を採取し、その血液中に乳酸が多く含まれることを発見しました。

このことから、「どうやら乳酸は疲労となにか関係があるらしい」と考えられるようになりました。

それから数十年後の1929年。

世界的に有名な研究者であるヒルが、乳酸が筋収縮にどのような影響を与えるのかを調べました。

具体的に言うと、カエルの筋肉を摘出し、それを「通常の状態」と「乳酸に浸し、酸性にさせた状態」で筋収縮を行わせ、それぞれで筋力発揮に違いが見られるかを比較しました。

その結果、乳酸に浸した時の筋肉の筋力発揮が有意に弱まりました。

このことからヒルらは「乳酸が筋肉に溜まると筋力発揮がしにくくなり、それが疲労として認知されるのだ」という論文を発表し、

乳酸=疲労物質

という構図がスポーツ界に広く認識されるようになりました。

ここでのロジックは、

「疲れているときには乳酸が溜まっている」+「筋肉が乳酸に浸され酸性になると、筋収縮が阻害される」

=乳酸は疲労物質

というかんじ。

 

※乳酸は「酸」なので、身体に乳酸が溜まることで身体が酸性化し、これによって筋収縮が阻害されると考えられました。

 

 当時から、「乳酸=疲労物質」という考えに対し疑問はもたれていた

しかし、乳酸が本当に疲労の主たる原因なのか、疑問を持つ研究者は少なからずいたようです。

なぜなら、乳酸が身体に溜まっていなくても疲労を感じるような場面が多々あるからです。

乳酸は糖質が急激に分解されたときに発生するのですが、もし骨格筋内に十分な量の糖質がなければ、乳酸はなかなか溜まりません。

このよい例が、マラソン完走後。

トップレベルの選手であれば体内にエネルギーを残したままゴールしますが、市民ランナーのほとんどが30kmの壁と言われるエネルギーの枯渇を経てゴールに辿り着きます。このとき、身体は人生で1、2を争うほどにしんどいと思いますが、身体に乳酸は全然溜まっていません。

また、ポイント練習などをした次の日に疲労感を感じている時なども、乳酸は溜まっていません。

疲労しているときに乳酸が溜まっているのは、「筋肉内に糖質が十分にある状態で、短時間高強度の運動を行ったとき」だけです。

それなのに、「乳酸=疲労」?

ちょっと違和感ありませんか?

 

根底を覆す実験結果が発表される

「筋肉を乳酸に浸すことで筋収縮が妨げられる」という論文が発表されたことを上記しましたが、しかし、この実験の条件設定にはひとつの穴がありました。

それは実験を行ったときの筋肉の温度が、筋肉が本来保っている体温と大きく異なっていた点です。

そこで ある研究者(名前忘れた)が同じような実験を、今度は体温に近い温度の条件下で行いました。

すると、驚くべきことに、乳酸が筋力発揮を低下させる度合いが、以前報告されていたものよりはるかに軽いものだったのです。

これにより、「乳酸が筋肉を酸性にして筋力発揮を妨げる」という、それまで信じられてきた常識が大きく揺らぐこととなりました。

 

そもそも、筋肉、血液中はそれほど酸性にならない

また、「激しい運動をすると筋肉が酸性になる」と言われていますが、実際はどれだけ身体を追い込んでも血中、筋中は弱酸性程度にしかなりません。

つまり、「筋肉は酸性になってもそれほど筋力発揮は衰えず」、かつ「疲労時にも筋肉はそれほど酸性にならない」のです。

これらにより、乳酸=疲労物質という主張を支えていた

「疲れているときには乳酸が溜まっている」+「筋肉が乳酸に浸され酸性になると、筋収縮が阻害される」=乳酸は疲労物質

というロジックが ガラガラと音を立てて崩れ去りました。

 

乳酸が疲労を軽減する可能性も!?

さらに、激しい運動中の筋肉の収縮を乳酸が手助けしていることを示唆する論文も複数報告され、「乳酸=激しい運動を行うために不可欠な基質」という考えがより強固になってきています。

 

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まとめ

以上をまとめると、

昔から「疲れているときには乳酸が溜まっているから、乳酸は疲労物質だ!」と短絡的に考えられてきて、

そして近年、それは間違いであることが分かってきたということです。