僕は高校1年から大学院1年までの8年間を、文字通り陸上競技に捧げてきました。
インターバル走やペース走、ジョギングなどあらゆる練習を何百回も繰り返してきた中で、
これこそが魔法のトレーニングだ!!と感じたのがビルドアップ走です。
この記事では、ビルドアップがいかにアツいトレーニングかを、僕が熱を込めて解説していきます。
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もくじ
ビルドアップ走とは?
ビルドアップとは、ペースを抑えて走り始め、徐々にペースアップしていくトレーニングです。
体力的に辛くなる後半、あえてきついペースで走ることで、試合の後半でも崩れず粘って走ることができるようになると、一般的には言われています。
具体的なビルドアップ走の一例
10kmのビルドアップ走を行う場合の例をご紹介します。
スタート時は5’00/kmで走り、そこから2km毎に20秒ずつペースアップしていきます。そして、最後の1-2kmはペースフリーで身体を追い込む。
これが俗に言うビルドアップ走です。
練習の走行距離をもっと長くしたり、逆に短くしたり、ペースアップの程度を変えたりすることで、練習強度を調整することができます。
なるほどわかった、ビルドアップ走とは・・・

photo by Surian Soosay
「なるほど、ようするに、ペースを上げていくのがビルドアップ走なんだね?」
うーん、少し違いますね。
ベースを上げていくのではなく、
ペースが「上がっていく」のです。
意味分かりましたか?
分かりませんよね?
ちゃんと説明するので安心して下さい。
ビルドアップ走を魔法のトレーニングにするために重要なこと

photo by Armando Mejia
ビルドアップ走は一言で言えば「ペースを上げていくトレーニング」です。しかしランニングペースを無理矢理上げてしまうと、魔法のトレーニングではなく「ただ消耗するだけの練習」に成り下がります。なぜなら無理にペースアップを行うと、無駄なところに力の入ったロスの多い走りになってしまうからです。
トレーニング歴の浅いランニング初心者であれば、多少雑に練習を行っても足は速くなるでしょう。ですが、トレーニング歴が長く、記録が頭打ちになりつつあるランナーは、刀を研ぐように繊細に練習を積まなければ競技力を伸ばしていくことはできません。
じゃあ、どのようにビルドアップ走を行えばいいのか?その答えは・・・
身体の声に耳を傾けながら「楽に」走り、身体の芯が温まるにつれて勝手に上がってゆくペースに、身を委ねる。
これこそが、僕の提唱する魔法のトレーニングです。
みなさんには、ジョギングをしていたら勝手にペースが上がってしまった、という経験はありますか?
ビルドアップ走はこのイメージに近く、「気付いたらペースが上がっていた」くらいの感覚で行うことが理想です。
ビルドアップ走で乳酸性作業閾値(LT)を体感しよう

photo by Open Grid Scheduler / Grid Engine
ビルドアップ走の後半、ペースが上がっていくと、ある地点でペースが上がらなくなります。感覚でいうと、一定のペースを境に壁のようなものを感じるはずです。
これがいわゆる乳酸性作業閾値、通称LTです。
乳酸性作業閾値(LT)とは?
ランニング中には常に乳酸産生、乳酸利用が行われています。ランニングペースが遅ければ乳酸利用の方が多いので血中(筋中)乳酸濃度は低いままですが、あるペースを境に乳酸産生量が乳酸利用量を上回り、乳酸濃度が高くなっていきます。
この分岐点の事を「乳酸性作業閾値(LT)」といいます。
なぜこんな難しい単語の説明をわざわざし始めたのかというと、長距離種目やマラソンの競技力には、この「LT」が深く関係しているからです。マラソンの記録とLTペースの間には相関関係があり、LTペースが早い選手ほど、マラソンの記録が優れていることが明らかとなっています。
要するに、LTペースを高める=長距離種目・ランニングの記録が伸びる ということです。語弊を恐れず言えば。
そして。
LTペースを高めるのに最も適したトレーニングがビルドアップ走であると、僕は考えています。
ビルドアップ走によってLTペースが向上する理由

photo by Horia Varlan
ビルドアップ走によってLTペースが向上する理由としては、「ランニング効率の改善」「筋肉の酸化系エネルギー供給力の改善」の2つが関係していると考えています。
「ランニング効率の改善」の意味と理由
ランニング効率の改善とは、簡単に言えばLT付近のペースを、リラックスした効率的なランニングフォームで走れるようになることです。
僕が提唱するビルドアップ走では無理にペースを上げることを決してしないため、バランスを崩すことなくランニングフォームを維持することができます。この理想的なフォームでLTペースでのランニングを繰り返すことによって速いペースでのランニング効率が改善していき、競技力が向上すると考えられます。
「筋肉の酸化系エネルギー供給力の改善」の意味と理由
筋肉の酸化系エネルギー供給力の改善は、簡単に言えば筋肉の持久力が向上することです。
LTペースを改善するのに最も効果的な練習の一つとして、LTペース付近でのランニングを行うことが考えられています。
ビルドアップ走の後半ではLTペース付近でランニングペースが上がらなくなるため、結果としてLTペースで走る時間が長くなりやすく、最適な筋群の持久力を向上させることができます。
ここまでのまとめ

photo by Health Cajandic
このあたりでいったん、内容をまとめておきましょう。
- ビルドアップ走とは、体調に合わせて自然にペースアップするトレーニングである。
- ビルドアップ走を行うことによってランニング効率と筋群の持久力を改善することができ、結果としてLTペースが向上する。
- LTペースが向上することで、主に長距離種目※の競技力が向上する。
ここまでの解説を読んでもらえれば、僕がなぜビルドアップ走を魔法のトレーニングであると考えているか、ご理解いただけると思います。
僕自身、陸上競技者としての晩年はビルドアップ走を中心にトレーニング計画を組み、それまで3-4年もの間更新することのできなかった5000mの自己ベストを更新することができました。
特に競技歴が長く、記録が頭打ちになりつつあるランナーは、騙されたと思って僕の提唱するビルドアップ走を練習計画に組み込んでみてください。きっと、記録を更新するための糸口を掴むことができるはずです。
※ここでの長距離種目とは、5000m、10000m、ハーフマラソン、フルマラソンを意味しています。距離が長くなるほど、LTペースと競技力の関係性は深まります。
上記のメリット以外で僕が感じたビルドアップ走のいいところ
ビルドアップ走の良い点① 他のポイント練習と比較し、スタート前がわりと気楽
インターバルやペース走は、スタート直後からランニングペースが速く、スタート前の憂鬱感がハンパじゃありません。
その点、ビルドアップではスタート時のペースが遅くていいため、気が楽です。
ビルドアップ走の良い点②序盤のペースが遅いためウォーミングアップいらず
ポイント練習の前にはウォーミングアップを何十分も行うランナーが多いですが、ビルドアップ走はウォーミングアップなしで開始しても問題ありません。時間的にも効率的です。
ビルドアップ走の良い点③身体の調子が立ち上がるにつれてペースを上げていくため、無理がない
「無理にペースを上げない」というお約束があるため、やはり気が楽です。
「あれー?今日はなんかペース上がんないなー」って日は、ペース上げなくてもOK。
僕自身、コンディションが良くないと感じた日にはビルドアップ走の途中でペースを緩め、練習内容をジョギングに変更することもありました。
ビルドアップ走の良い点④一人でも限界まで追い込みやすい
”無理にペースを上げない”という主張と若干矛盾するようですが、ビルドアップ走の後半はさすがにきつくなります。とはいっても、変に力んだきつさではなく、いい動きのまま維持できているけど、集中力を保つのが辛くなってきたというきつさです。
他の練習メニューだと、一人でこの辛さに耐えるのはかなりの精神力を要しますが、ビルドアップ走では案外集中力を維持しやすかったです。
おそらく、前半に無理をしていないという所がポイントなのでしょう。前半楽をしているから、後半踏ん張る分の気力が残っている、という。
ビルドアップ走の良い点⑤コンディションが悪い日、ジョグに変更しやすい
上にも少し書きましたが、自然とペースが 上がらない日には、そのままジョグしてもかまいません。
ペースが上がっていかないのは、身体の疲労が抜けておらず、ポイント練習をする準備ができていないからです。おとなしくジョグをして疲労を抜きましょう。
ビルドアップ走の良い点⑥疲れの残り方がナチュラル
なんだか根拠の薄い話ばかりで申し訳ないんですが、ビルドアップ走後の疲労ってすごくタチがいいんです。
インターバル走後の疲労ってまるで深くえぐれた傷口のように治りが遅いのですが、
ビルドアップ走の疲労は表面だけ擦って血が滲む程度の怪我のように治りが早いです。
関連 【陸上長距離】各練習メニューが身体に残す疲労の違い【マラソン】
このように、ビルドアップ走は百利あって一害なしの魔法のトレーニングです。(このことわざは僕が今作りました)
一例:僕のビルドアップ走中の心拍数、走速度(タイム/km)のグラフ

参考までに、一昨年走った箱根駅伝予選会1週間前に行った、ビルドアップ走の心拍数とタイムの推移を載せておきます。
青い線が速度、灰色の背景が心拍数です。(わかりにくくてすみません・・・)
この時の練習では、前半は4分/kmくらいのペースから入り、後半は3分20~25秒/kmくらいのペースで落ち着きました(つまり、3分20~25秒/kmのペースが僕にとってのLTペース)。
ラスト1000mは3分10秒/kmに上げてフィニッシュ。
ランニングペースに合わせて心拍数も徐々に上がっていっているのがわかりますね。
この練習をやり終えたあとの手応えとして、「たぶんLTが3分20秒/kmよりちょっと越えたくらいのペースだから、予選会(20km)の前半は3分20秒/km切って入って、後半LTペースで踏ん張る感じになるかな」という感覚をもち、当日はまさにドンピシャでした。
(箱根駅伝予選会の僕の平均ペースは3分22秒でした)
トレーニングに心拍計を活用することをおすすめします
これまでずっと言いそびれてきましたが、長距離やマラソン選手にとって心拍計はマストアイテムだと考えています。
心拍計の有無で、練習後のフィードバックに天と地ほどの差がでます。
心拍計を使って毎回のトレーニングのデータを記録していくことで競技力の向上を客観的に観察できますし、練習強度の調整もより正確に行うことができるようになります。
僕自身、心拍計をトレーニングに導入してからはコンディションを崩す事がめったになくなりました。
練習毎のタイムを記録するだけだと、どうしてもタイムだけを比較してしまうんですよね。で、変にタイムを意識して走ってオーバートレーニングに陥るという。こういう経験、ランナーならみんな一度はあるのではないでしょうか。
心拍数も合わせてトレーニングを比較できれば、そんなこともなくなるわけです。
もし僕がランナーの指導者になったとしたら、選手には100%心拍計を持たせます。
心拍計なしでトレーニング計画を立てていくのなんて、暗闇の中を突っ走るようなものですからね。
心拍計は、そんな暗闇を照らす心強い懐中電灯です。
関連 【ランニング】心拍計&GPS腕時計はトレーニングに3つの革命的メリットをもたらす【ガーミン】
関連 【ランニング/マラソン】ハートレートモニターの単純明快な活かし方【GARMINおすすめ】
↑心拍計&GPS機能がついたウォッチを使うことで具体的にどのようなメリットがあるのか。また、心拍計をどのように練習に活用するべきか、これらの記事で熱く語っています。
まとめ

この記事はぜひとも多くの長距離、マラソンランナーに読んでいただきたい。
僕はひそかに、
ビルドアップ走こそが日本の長距離界の未来を切り開くトレーニングだ
と思っています。
拡散してほしい。拡散してくれ、この記事。(心の声)
ビルドアップ走は魔法のトレーニングだということにすでに気付いている人は是非是非コメントください。
まだ気付いてない人は、この記事に書いてある事を実践して自己ベストをガシガシと更新して下さい。
競技力を高めるためにもっとも重要なことは、”疲労回復に着目すること”
トレーニングでいくら身体を追い込んでも、練習後の疲労回復をおろそかにすればかえって逆効果になります。
武井壮も疲れるんだなあ、と感じた1日だったけど、オレの特技はそっから誰よりも早く回復することだ。。。鍛えるより治す方が時間がかかるんだからよ。。そこを早めりゃ誰より早く辿り着く。。トレーニングの極意はそこにあるよな。。1番強くなるのは1番速く回復するヤツだ。。勝負は才能じゃねえ!
— 武井壮 (@sosotakei) 2015, 5月 25
武井壮さんのおっしゃるとおり、競技力向上にもっとも重要なことは、疲労からの回復に目を向けることです。
では、疲労回復を早めるためにはどうしたらいいのでしょうか?
当ブログでは運動直後のリカバリープロテイン摂取を推奨しています。
僕から言わせれば、運動直後に糖質・たんぱく質を摂取することはマスト。これをしないというのは、速くなるつもりがないのと同じだ。
練習後に飲むプロテインとしておすすめなのは、リカバリーに特化したものだ。
各社さまざまなリカバリープロテインを製造しているが、それらの中で最もコスパに優れるのは、ウィダーのリカバリーパワープロテインだろう。
他のプロテインと比べて値段も安い。ウィダーの製品ということで、品質も保証されている。
ポイント練習を行う日は、練習場所にリカバリープロテインをザバスプロテインシェーカー (500ml)に入れて持っていこう。
練習後、これに水道水を注いで飲むだけで、運動後に必要な栄養素を素早く摂取することができる。
運動直後にたんぱく質と糖質を素早く摂取することは、超重要です。
「最近、練習の疲労が抜けないなぁ」なんて思ってる人は、練習後プロテインを飲みましょう。
適切な栄養摂取も練習のうちですよ。
関連 【おすすめプロテイン】ランニング後はこれを飲め!陸上・マラソン選手が飲むべきプロテインを一挙紹介