
10時過ぎ、ノックの音で目が覚めた。
ドアを開けると、昨日僕を宿へと案内してくれた男前ガイドがたっていた。
彼の話すところによると、今接近してきている台風の影響により船に乗ることができる人数が限られており、船に乗るためには予約が必要らしい。
確かに外を見てみると昨日の予報通り、雨・風共に台風の接近を思わせる強さだ。
さらに、天候の関係で乗船券が値上がっているとのことだった(300ペソ=700円)。本来の船代は80ペソ=200円。
今金を渡せば予約してやるといわれ、また悪い癖でホイと金を払ってしまった。
最終的にこの300ペソはこいつの懐に入った。
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雨の中のサンドイッチ
まぁ、船のことはこの男に任せておこう。そんなことより、昨日食べた絶品バジルサンドを食べなくては。胃がバジルを欲している。
雨に降られながらレストランへと向かった。
台風の影響で店を閉めてるんじゃないかと心配だったが、無事に営業していて一安心。
てっきり室内で食えるものと思っていたのだが、案内されたのは雨に打たれてびしょびしょになっている席だった。イスの上には一応屋根はあるものの、風が強すぎてほとんど屋根の役割を果たしていない。
だが、どんな状況であれ、ここのサンドイッチが食べられるのならば本望だ。
全身びしょびしょになりながら、至福の一時を噛み締めた。
船出するの?しないの?どっちなの?

その後荷物をまとめ、男前ガイドのあとについていき、15分ほどで船乗り場に到着した。
いざついてみると、船を待っているのは僕以外に白人のお姉さんただ一人。しかも、ある程度人数が集まらないと船を出さないという。男前ガイドが言っていた予約云々の話はなんだったんだろう。
しかたなく他の乗客を待っていると、白人のおじさんが2人のそのそとやって来た。ポルトガル人で、明日の朝セブ島発の飛行機に乗らなければならないらしい。僕も明日は昼からオフィスへ行かないといけない。この船に乗れないと困る。
4人集まったしそろそろ出発だよねと思っていたら、なんとキャプテンが、もっと金を出さないと船を出さない とごねだした。
僕らに選択の余地がないことをいいことに、金をむしれるだけむしろうという魂胆が丸見えだ。なんとも卑しい。これだからフィリピン人は
そうこうしている間に、雨と風はますますひどくなっている。
嘘つき男前ガイドも、こんな中船乗ったら絶対死ぬよ?安い宿教えてあげるからもう一泊したら?と不安そうな顔をしている。300ペソの宿を教えるからやめとけと言われたときは、さすがにマジかもしれないと思った。
だが、僕らは行くしかないのだ。この金くれキャプテンに大金を払い、その後船が転覆することになろうとも。
結局、全員で合計3500ペソ払い、なんとか船を出してもらえることになった。
波ってこんなに荒れるんだね

船に乗ったことを、はしりだして2分で後悔した。
波の高さが尋常じゃない。数メートルはあろう波が次々に船を襲う。
船が波の上に登ると、崖から落ちるかのごとく水面に叩きつけられる。船は転覆寸前になりながら、ギリギリのところでバランスを保っている。
キャプテンもエンジン操作に慎重で、船の速度に緩急をつけることでなんとか波をやり過ごしている。たぶん、いつものように海面を爆走したら一瞬でお陀仏なのだろう。
船には屋根があるのだが、もはや屋根の機能を果たしていない。身体もカバンもびしょびしょで、風も吹き付けてくるため本当に寒い。
身体の芯から震え、こんな船に高い金を出して乗ってしまったことをひたすらに後悔しながら、船が無事岸につくことをただ祈った。
なんとかマヤに到着。しかし…
死ぬ思いをして、やっとの思いでマヤに辿り着いた。だが、僕らをセブシティへと運ぶはずのバスが見当たらない。
どうやら船が停泊したのは本来の港ではなく、バス乗り場から数キロ離れたところのようだ。すぐそこにミニバンが停まっており、僕ら乗客がくるのを待ち構えている。
後になって気付いたのだが、どうやら僕らがマヤへくることはマヤ側の人間に事前に知らせてあったらしい。つまり、わざとバス乗り場とは違う場所へ船を停泊させ、僕らがミニバンに乗るよう誘導することによって、さらに金を巻き上げようとしていたのだ。なんて卑しい考えだ下衆の極みめ不幸になれ
だがポルトガル人のおじさんたちはお金に余裕があるらしく、今日中にセブシティにたどり着けるならお金はいくら払ってもかまわないという様子で、さっそうとミニバンに乗り込んでいった。
ベネズエラのお姉さんとの2人旅
なんだかもうめんどくさいし、僕も一緒に乗り込んでしまおうか と思っていたところ、一緒に船に乗っていたお姉さんに不意に話しかけられた。
「ドゥー ユー ワナ テイク ア バス?」
お風呂に入りたいかって聞いてるのかと思って、
「イエス!」
と答えると、お姉さんはすぐそこにいたバイクの運転手に話をつけ、いつの間にか3人乗りでどこかへ向かうことになっていた。(20ペソ=45円)
シャワー浴びれるのかなぁ、早く温まりたい。
お姉さんとバイクに乗っていることになんだかウキウキしていたら、程なくしてバイクはバス乗り場に到着した。
ああ。バスって、浴槽のことじゃなかったんだ。
お風呂に入れないことは残念だったが、惨めな一人旅が一転、綺麗なお姉さんとの2人旅になったことで今までの不幸がすべて報われた気がした。
バスの中でいろいろ話をした。聞くと、お姉さんはベネズエラ出身の25歳で、セブにスキューバのマスターライセンス?を取得しにきたらしい。
マラパスクアへ来たのは2度目。もともと旅行好きで、8ヶ月間世界を旅したこともあるという。なかなかパワフルなお姉さんだ。
そういえば、前にドゥマゲッティで会った男前もベネズエラ出身で、スキューバ好きだったな。
僕もスキューバのライセンスをとろうか考え中なのだが、どうしても海への恐怖心が消えない。
幼少期にジョーズなんてみるんじゃなかった。
旅の終わり
夜9時過ぎにセブシティへとバスは到着し、長く険しかった旅は終わりを告げた。
バス停からタクシーを相乗りし、別れ際、お姉さんとFacebookで友達になった。マーク・ザッカーバーグに感謝。
家に着いたらそのままベッドに倒れ込んだ。
ほんとうに疲れた。けど、ほんとうにたのしかった。
僕もいつかお姉さんのように数ヶ月、数年世界を旅してみたいな。
日本では新卒採用からの終身雇用という流れが一般的で、そこから外れるといわゆる「負け組」という札を貼られてしまう。
僕はいつも「周りの目」というものを気にして生きてきたから、「負け組」というレッテルを貼られることが怖くて仕方がなかった。
だけど、セブ島に来てフィリピン人の陽気さにあてられているうちに、「まぁ、いっか」の精神が少しずつ心に浸透してきているような気がする。
いいことかどうかは別として。
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【マラパスクアの旅、完結】