
僕が住んでいるホテルのフロントには、いつも、雇われのおばちゃんが座っている。
セブ島にきたばかりの頃、英語が今以上に理解できなかった僕にかまわず話しかけてきてくれて、その優しそうな雰囲気から、なんとなく僕はこのおばちゃんのことを信頼していた。
[adsense]photo by zen Sutherland(CC-BY SA)
2ヶ月ほど前のある日
僕が仕事から帰ると、おばちゃんはいつになく深刻そうな面持ちで、僕に話しかけてきた。
「あのね、あなたのことを信頼しているからお願いがあるの。2000ペソ貸してくれない?」
今になって思えば、信頼してるから金を貸せってすげぇ物言いだなと感じるが、その時の僕はおばちゃんがいい人だと信じ切っていた。
ちょうどRCBC銀行からお金をおろしたところだったので、「ああ、いいですよ」とポケットの財布から2000ペソを取り出し、それをおばちゃんに手渡した。
「本当にありがとう!来週の給料日には必ず返すから!プロミス、プロミス!」
丁寧にお礼を言われて、少しばかり気持ちが大きくなった僕は、「まぁそんな急がなくても、返せる時かえしてくれたらいいですよ」とおばちゃんに伝えた。
愚かだった。
翌週、おばちゃんが金返すと言っていた、約束の日。

仕事の関係で帰るのが遅くなり、ホテルに着いたのは深夜前だった。フロントには、いつものようにおばちゃんが座っていた。2000ペソ、ちゃんと用意したのかな。
なんだかお金を取り立てるようで嫌だったが、2000ペソは僕にとっても大金だ。フロントのおばちゃんからは何も言ってこなさそうだったので、しかたなく「2000ペソ、準備できた?」と、控えに聞いてみた。
「あ、あらー!午前までは準備してたんだけど、母の治療費で払っちゃってもうなくなっちゃったの。来週金曜日、必ず用意するから待ってて!プロミス、プロミス!」
そうか。親の医療費ってんじゃ、しょうがない。困ったときはお互い様だよね。それじゃ、また今度。
そう言って、僕はさわやかにフロントを後にした。
ところが。
翌週、翌々週、そのまた翌週になっても、おばちゃんはいっこうに金を準備する気配がない。
僕が聞くたび、おばちゃんは「来週の○曜日にはかならず!プロミス!」と言うのだけれど、
約束の日にフロントへ行くと結局、
「ついさっきまで、お金あったんだけどねー。医療費がね。つぎは必ず!プロミス!」
と言って毎回はぐらかす。
始めのうちは大海のように大きな心でその言い分を聞き入れていた僕であったが、次第に、嫌な予感が心の中で膨れ上がっていった。
「あれ? コイツひょっとして、金返す気ないんじゃねぇ・・・?」
そういえば、僕の仕事場のお兄さんがこんなことを言っていた。
「フィリピン人には絶対金を貸さない方がいい。もし貸すなら、まず返ってこないと思っておいた方がいい。」
この話を聞いたときは「んなもん人によるだろうよ」と思っていたが、あんなに人のいいフロントのおばちゃんが金を返してくれないということは・・。
人の助言はちゃんと聞くものだな。と、深く反省した。
お金の貸し借りは悪いことしかない
しかし、ごねられているうちにいろいろと思うところもある。
おばちゃんの給料は、インターン生の僕がもらっているお金よりはるかに少ない。そんなおばちゃんから、日本人からすればたかだか数千円ともいえるお金をもぎ取ろうとしている自分が、ひどくケチ臭い人間のように思えてならないのだ。
それに、お金を貸したことでおばちゃんとの間にわだかまりができてしまい、最近ではめっきり雑談がなくなってしまった。
フィリピン人に限らず、お金を貸すということは、得てして不幸な結果しか生まないような気がする。
今度、人にお金を貸す時は、お金をあげるくらいの気持ちでいよう。
はぁ、俺の2000ペソ・・・
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